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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)73号 判決

東京都中央区銀座七丁目一七番一三号

昭和四八年(行コ)第七三号事件控訴人兼同第七六号事件控訴人(以下、第一審原告という)宮城株式会社

右代表者代表取締役

大山教男

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

同都同区新富二丁目六番一号

昭和四八年(行コ)第七三号事件被控訴人兼同第七六号事件控訴人(以下、第一審被告という)京橋税務署長

武田秀一

右指定代理人

武田正彦

小山三雄

佐伯秀之

関根正

主文

一、(昭和四八年(行コ)第七三号事件について)

本件控訴を棄却する。

二、(昭和四八年(行コ)第七六号事件について)

原判決主文第三項のうち第一審被告敗訴部分を取り消す。

第一審原告の請求を棄却する。

三、昭和四八年(行コ)第七三号事件関係の控訴費用および昭和四八年(行コ)第七六号事件関係の訴訟費用は、第一および第二審を通じ、いずれも第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告代理人は、昭和四八年(行コ)第七三号事件につき、「(一)原判決主文第三項を次のとおり変更する。第一審被告が第一審原告に対し昭和四三年一二月一九日付(同年同月二七日付で金額訂正)でした源泉徴収にかかる昭和三九年六月分の給与所得の本税を一〇二万二、二八〇円、不納付加算税を一〇万二、二〇〇円とする納税告知、賦課決定処分を取り消す。(二)訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を、同第七六号事件につき、控訴棄却の判決を、

第一審被告代理人は、昭和四八年(行コ)第七三号事件につき、控訴棄却の判決を、同第七六号事件につき、主文第二項と同旨および訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告に負担させる旨の判決をそれぞれ求めた(なお、第一審被告は、原判決主文第一および第二項に関する控訴を取り下げた)。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、「証拠として、第一審原告において、甲第六号証の一ないし二六、第七号証の一ないし三、第八、第九号証の各一ないし四を提出し、当審証人上西康之、古川英郎の各証言を援用し、後記乙号証のうち乙第三〇号証中の名刺の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、乙第三三号証の一、二の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、第一審被告において、乙第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇ないし第三二号証、第三三号証の一、二を提出し、前出甲号各証の成立を認めると述べた。」と付加するほか、原判決書事実欄のうち本件源泉徴収決定処分(引用にかかる原判決書の略称)に関する部分と同じであるから、これを引用する。

理由

一、当裁判所は第一審原告の本件源泉徴収決定処分の取消請求は失当であると判断するところ、その理由は次に付加するほか、原判決書四七丁表一行目冒頭より六三丁裏四行目の「推定することができる」までに記載されているのと同じであるから、これを引用する。

(一)  第一審原告が松岡茂に本件株式(引用にかかる原判決書の略称)を昭和三八年一一月六日に売り渡し渡したというのが仮装に出たものとみるのが相当であることは原判決の判示するとおりであり、当審における全証拠を検討してみても、右判断の妨げとなるものは見あたらない。

(二)  当審証人上西康之の証言中には、本件株式の売買価格を一株あたり一〇〇円として商談が成立したのが昭和三八年一二月一〇日前後頃である旨の原審における同証人の証言と同様の供述部分はあるが、それら各証言によつても右の月日の記憶が正確な根拠にもとづくものでないことおよび本件株式は非上場株式であつて、その移転は大量の株式とともになされ、同発行会社の経営実権の移転をも意味するものであることが明らかであること、そしてこのような大量の株式移転に関する商談と現実の株券の授受、移転との間にかなりの日数がありうることからすれば、前記各証言をもつて引用にかかる原判決の判示するとおり右は昭和三八年一二月三日であつて、そのころすでに第一審原告が本件株式の処分利益を確定的に取得したとの判断を覆えすのに足りる心証をえられない。

(三)  成立に争いのない甲第六号証の一ないし二六、第七号証の一ないし三、第八、第九号証の各一ないし四によると、松岡茂が昭和三八年一二月一六日から同一九日までの四日間に総額一、〇〇〇万円以上の多額の株式の買いつけをしており、また同人の昭和三八ないし同四〇年度の所得税確定申告書によると、昭和三八年度の配当収入としていすず自動車関係八万円、同三九年度の配当収入としていすず自動車ほか一三銘柄関係七八万九、一六六円、同四〇年度の配当収入としていすず自動車ほか一七銘柄関係一七四万七、一二九円の各所得(源泉徴収分を含む)のあつた旨の記載がなされ、これに対応する所得税を支払つていることが認められる。

ところで、原判決挙示の乙第二二号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるため真正な公文書と推定される乙第二九号証の一、二によると、松岡清次郎は第一審原告をはじめ関連会社の印鑑を保管し、また同関連会社の名目上の役員の給料、賞与を取得し、その代り同人らの所得税確定申告の際これに対応する税金分を負担し、また他人名義を使用して株式を買いつけ、各使用名義別に自らその売買を管理し、同株式の配当金を受領し、その代りに右と同じく名義借用人の配当金収入に対する税金分を負担していたこと、昭和三七年度の所得税確定申告にあたつて、松岡茂およびその妻満喜子が同人ら名義による株式の配当収入を申告しなかつたため、所轄の横須賀税務署で更正処分をしたところ、右配当収入の実質的所得者は松岡清次郎であり、同人において申告済であるとの異議申立があつたこと、右税務署において松岡清次郎に対する所轄の芝税務署に右の事実を照会したところ、同税務署所得税課特別調査斑が同人らにつき特別調査を実施した結果、右配当収入の実質的所得者が松岡清次郎であると判明し、同人において申告もれがあるとし、同税務署より同人に対し修正申告をするようにしようようし処理した旨の回答があつたこと、右のような関係もあつて、昭和三八年度ないし同四〇年度の松岡茂らの所得税確定申告に際しては、少なくとも株式の配当収入に関しては松岡清次郎の指示によつて申告書を作成し各所轄税務署に提出したことが認められる。右認定の事実を考慮すると、前示のように松岡茂が昭和三九年一二月中の四日間になした総額一、〇〇〇万円以上にものほる多数の株式の買付および昭和三八年度ないし同四〇年度の所得税確定申告書に記載した株式の配当収入のうち、果たしていくばくのものが実質上松岡茂自身によつて買いつけられ、あるいは同人自身の所得となつたのかは疑問であるというほかはない。してみれば、前記のように松岡茂名義で多数の株式を買いつけたことおよび所得税確定申告書に株式の配当収入があつた旨の記載をして、これに対応する所得税を納付したことをもつて、直ちに本件株式の買いつけを実質的に松岡茂がなし、その売却益が同人に帰属したとまで認定することは困難であつて、本件株式の売却益が第一審原告に帰属するとの認定を覆えすことはできない。

(四)  本件株式の売却益にかかる第一審被告主張の預金利息額が三万〇、九〇九円であること自体は、その性質および帳簿上の処理は別として、第一審原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

原判決書六三丁裏四行目の「推定することができる」の次に、「ところ、その利息が三万〇、九〇九円であることは右のとおりであり、上記のとおり本件株式の売却益が実質的に松岡清次郎の所得金と同様に管理処分(費消)されていたことからすれば、同売却益について生じた右預金利息もまた同人の所得金と同様に管理処分されていたものと推定され、この推定を覆えすのに足りる証拠もない。」を付加する。

(五)  してみれば、本件株式の売却益二四八万七、五〇八円およびこれに対する預金利息相当額三万〇、九〇九円は、松岡清次郎においてこれを費消したというべく、したがつて第一審原告が右金額を同人に対し臨時的給与(賞与)として支給したと認められ、その時期は格別に扱うべき事情もとくに見あたらないので、松岡茂名義の通知領金が解約された昭和三九年六月とみるのが相当である。

そして、第一審原告が昭和三八事業年度の法人税について昭和三九年九月二六日第一審被告に対し所得金額一四〇万四、二九八円の確定申告をしたことは当事者間に争いがなく、これに本件株式の前記売却益と預金利息計上もれを加算すると、所得金額は合計三九二万二、七一五円であり、これに対する源泉徴収にかかる昭和三九年六月分の給与所得の本税が一〇二万二、二八〇円、不納付加算税が一〇万二、二〇〇円であることは当事者間に争いがない。

そうすると、本件源泉徴収決定処分は適法であり、これを違法として取り消しを求める第一審原告の請求は失当というべきである。

二、よつて、第一審原告の本件控訴(昭和四八年(行コ)第七三号事件)は理由がないのでこれを棄却し、第一審原告の本件請求を一部認容した原判決は失当であり、第一審被告の本件控訴(昭和四八年(行コ)第七六号)は理由があるので、原判決主文第三項のうち第一審被告敗訴部分を取り消したうえ、第一審原告の請求を棄却し、昭和四八年(行コ)第七三号事件関係の控訴費用の負担につき、民訴法九五条および八九条を、同第七六号事件関係(第一審被告の控訴取下部分を除く)の訴訟費用の負担につき、同法九六条および八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 畔上英治 判事 岡垣学 判事 唐松寛)

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